WORKS
言の葉 ― 短歌と言葉
退職後の栄一にとって、短歌は「一日を丁寧に生きた証」でした。
三十冊のノートには、およそ千二百首の短歌が遺されています。
ここでは、家族が選んだ八首を、詠まれた季節とともに収めました。
TANKA SELECTION
選ばれた八首
庭先の つつじ明かりに 茶を啜り 今日といふ日の 始まりを愛づ
春・晩年玄関に 響くこゑあり おほちちと 呼ばるるたびに 部屋の明るむ
五月・孫来訪の日泥んこの 子らと笑ひし 日々遠く 黒板の白 夢にまだ見ゆ
教師時代を想ふ言の葉を 持たざる子らの まなざしに 咲かぬ花なぞ 無しと教はる
障害児学級の日々秋雨に 古傷うづく 夕まぐれ 教へ子の文 胸にあたたし
九月・雨の日見送りの 車の影の 角曲がる まで振る手にも 明日のちから
孫を見送りて亡き妻の 湯呑をそっと 拭きをれば 窓の夕陽の やけにやさしき
文枝を偲びて支へられ 支へたつもりの 八十年 ただありがたしと 今日も書き置く
最晩年
言葉には、
人の心を健やかに育てる力がある
― 栄一が生涯信じ続けた言葉